K氏のソムリエへの長くて短い道
なぜソムリエを目指すのか。その理由は人によって様々でしょう。私の場合、それは「ワインに落とし前をつけたい」という気持ちだったような気がします。就業や経験など、一応要件は満たしていましたが、他に本業も持ち、必ずしも仕事上必要とは言えない「ソムリエ」という資格をあえて取ることが、20年ほど飲み続けてきたワインというものが自分にとって何なのか?という、その答えを得るためのきっかけになるような気がしたのです。
とはいえ、そんな理由をはじめから意識していたわけではありません。私はこれまでにも、夕食後にインターネットを見ていて急に思いついて自動二輪の免許が欲しくなり、翌日には教習所に通い3ヶ月後には大型まで取って900ccのバイクにまたがっていたり、通りすがりに見た車を翌日買いに行ったりと、とかく思いつくとすぐ行動するタイプなのですが、ソムリエを取ろうと思ったのも、やはり思いつきでした。3月のある夜、インターネットを見ていて、ふと、ソムリエの受験申し込みがまだ間に合う、と気がついたのでした。それまでにも何回か受験を考えたことはあるのですが、その時はいつも申し込みが終了していたのです。うん、これは何かの運命だ。と、その時考えたかどうかは覚えていませんが、その翌日早々に教科書を買いに行き、家に帰って開いたときには、心はもう決まっていたような気がします。
ところが、教科書の内容をちょっと読んで、暗澹たる気持ちになりました。情報量が多かったのです。えー。これ全部覚えるのは無理だろう、と思いました。しかも、執筆者には申し訳ないのですが、文章がこなれていないので読みづらいのです。うーん、と唸って早速インターネットで「ソムリエ、勉強法」と検索しました。すると、そこに出てきた経験者は、みんなどこかの教室に通っていたのです。アカデミー何とかという教室が多いようです。そこで、今度は「京都、ワイン教室」で検索したら、ワインスクール井上塾が上位に出てきました。本来あまり学校というものが好きではない私が、その時はなぜか、こういう所に通うのも良いかもと思いました。読むと、井上塾はワインバーもやっているようです。これは好都合、とにかく一度行ってみようと、私はその夜さっそくタスト・ヴァンを訪れました。
ちょっと薄暗い階段をやや緊張しながら登ると、いかめしいドアがあります。その後授業のたびに開くことになる、運命のドアです。そのドアを初めて開いて中をのぞくと、時間が早いせいかお客さんの姿はありません。でも、愛想の良い女性スタッフが二人いて、「いらっしゃいませ」と声をかけてくれたので、お店に入ることができました。その時何を飲んだのか、残念ながら覚えていませんが、飲みながら話をすると、やはり二人ともソムリエールだそうです。そこで受講を考えている旨を話すと、立派な案内パンフレットをくれました。そして私が「先生はどんな方なんですか?」と尋ねると、ふたりで顔を見合わせて、それから「こんな人です」と、これを出してくれたのです。それが井上先生との、最初の出会いでした。