安藤夫妻のワインエキスパートへの道

フランス料理「匠・奥村」調理兼ソムリエ。'07JSA認定資格に合格、料理・サービス・ソムリエの3つの顔を持つ奇才。88年より渡独し、数々のミシュラン格付レストランで部門シェフ、副料理長として活躍。97年ドイツ日本国総領事館付公邸料理人。03年帰国後は京都に滞在、06年より祇園「おくむら」勤務を経て現在に至る。
第2話 最初の関門(2010.4月)

見出し「起立! 礼!」「よろしくお願いします!」という号令で始まった第1回授業。ノムリエコースのときと違って厳しい表情の井上先生に「大変なところに来てしまった……」と動揺する安藤家の2人。しかし先生が「8万5,000円という少なくないお金を頂いた以上、楽しい授業をするのではなく、試験に合格させることが講師の務め」とおっしゃるのを聞いて納得しました。実際、井上先生は厳しかったけれど、怖くはありませんでした。
井上塾のポリシーは「合格に必要なことは何でもする。必要ないことは一切しない」です。塾生に課せられたのは「授業を聴き、毎回紙で配られる『重要度でA〜Dに区分された重要項目』を暗記する」これだけでした。

見出し井上塾には「1日1時間。飲んだ日の翌日は早起きして2時間」という「鉄の掟」があります。平日、オクサマは通勤で電車に乗っている時間(片道約40分)を勉強に充てることができました。一方ダンナサマの通勤時間は徒歩3分ですが、職業は所謂「激務」とされるもの。夕食をとってお風呂から上がれば1時ですが、例え頭には入らなくても眠りに落ちる直前まで単語帳を開くのを日課にしていました。

見出し私たちは、とにかく習ったことは次の授業までに一度は覚えようと決め、井上塾名物「一問一答」を毎回クリアすることを目の前の目標にしました。しかし受験勉強開始時オクサマは32歳、ダンナサマは36歳と記憶力はとっくにピークを過ぎており、「1日1時間」で足りたのはワイン概論まで。シノニム、そしてフランス以降、私たちは日曜日のクラスでしたので、授業前日の土曜日には丸一日勉強してもC項目まで辿り着くのがやっとでした。

見出し私たちにとって最初の関門は、やはりボルドー。記憶力不足は工夫で補うしかありません。少しでも覚えやすくするため、まずメドックの格付けは縦軸をクラッセ、横軸をAOCとコミューンとする表を作り、「何級の、何というAOC・コミューンに、何という銘柄があるか」と覚えました。「サン・テステーフは2級にコス・ディストゥールネルとモンローズ、3級にカロン・セギュール(4級以下略)」表という風に。基本的に書いて覚えることをしなかった私たちでしたが、この表は紙にスラスラと書けるようにしました。ソーテルヌ&バルサックの格付けも同じ要領で。この覚え方で大抵の意地悪な問題に対応できます。ただ、2009年度の試験ではメドックの銘柄を問う問題は出なかったのですが……
ボルドーの一問一答があった授業の後、「この先、ボルドーより大変なところってありますか?」と尋ねたオクサマに対し、井上先生の返事は「うーん……まあ……そんなにありませんよ」というものでした。

見出し約8か月の受験勉強は、あの山を一つ越えれば海が見えるんだよというお祖母さんの言葉を信じ、結果的に幾つもの峠を越えるはめになった男の子のお話のようでした。ブルゴーニュ、イタリア、ドイツ……井上先生の「ここさえ越えれば」という言葉を信じ、私たちは幾つもの関門を通過していくのですが、それに気づくのは、ずっと先のことでした。

次回につづく・・・
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